10月14日の3DCGCAMPでは、弊社代表取締役コレサワシゲユキがマンガ制作の現場における最先端デジタル技術の利用方法について、実演も交えて講演いたしました。
ここでは、3回に分けてコレサワ氏の講演内容をお届けします。
内容は、大きく分けて以下のようになります。
■マンガ制作の今と昔-マンガ制作作業がデジタル化した要因
■デジタル化によるマンガ制作スタイルの進化
■マンガ制作を飛躍的に効率的にする3D技術・写真技術

+ + +
■マンガ制作の今と昔-マンガ制作作業がデジタル化した要因■
「漫画製作工程の今と昔。
90年代後半から、漫画作画作業をデジタル化する流れが出てきました。
僕が、品質面において手描きの作品と見分けがつかないデジタルコミック作成を提唱し始めたのも、ちょうどそのころです。
最初はPhotoshopを使用し線画にトーンを貼るというデジコミから始まり、Photoshopの機能を漫画向けに拡張したプラグイン、PowerTone、DigicomiToolsが登場します。これらは自分が開発アドバイザーとして作ってきた物ですが…それらの技術がデジコミ専用のソフトの開発、ComicStudioへとつながっていったわけです。
また、ComicStudioの3DLT(漫画原稿に3Dモデルを配置する機能)ですが、LightWave3Dという3Dソフトの標準ファイルフォーマットであるLWOとLWSが、そのまま扱えます。
これは僕のデジコミスタイル…コレち式デジコミスタイルでLightWave3Dを漫画制作推奨のソフトとしていたからです。
LightWaveを漫画制作で使用することを推奨しているのは、コストと生産性のバランスとメーカーのサービスの厚さがあります。特に漫画やセットデザインにおける3Dは、一般の3Dソフトの機能の大部分が不要でありながら一部の機能は絶対必要という、かなり偏ったものだからです。
漫画のデジタル化(ここでは電子出版ではなく執筆工程のいずれかをPCを用いた漫画制作)についてお話していきたいと思います。
漫画のデジタル化が加速した理由は大きくわけて3つあります。
【1】コスト削減
出版不況によって単行本ベースのビジネスモデルが成立しにくくなってきたことから、アシスタント代や画材代などのコスト見直しをせざるを得なくなってきました。
たとえば手描きだとスタジオにアシスタント分の机を用意しなくてはならなかった訳ですが、デジコミだとアシスタントの為に机を用意しなくても在宅で仕事をしてもらうことが可能です。これは単純に机のスペースやアシスタント用の仮眠室が無くなるということだけでなく、漫画業界の場合、アシスタントの交通費や勤務中の食費は多くの現場では作家が払うのが慣例ですから、その分大幅なコストダウンになる訳です。
またアシスタント同士の相性などから同時に呼べないというようなケースでも、在宅であれば雇う事ができますので、そういう意味でもメリットが大きい訳です。
アシスタントが使うPCも在宅であれば作家が負担することはありません。
そういう点でも在宅アシスタントを使うというメリットは大きいわけです。
ただし在宅アシスタントに任せる際は、作家と意思疎通が十分に取れていない場合、正確かつ明確に指示をしていない限りリテイクばかりで生産効率が悪化してしまいます。
デジコミの場合は、アシスタントを使う場合にも作家性と技術を明確に別けることが必須です。
【2】アシスタントを育てる意味が薄れたこと。
自分が若手の時は、新人アシスタントはつけペンに慣れるために毎日訓練をし、思い通りの線を描く技術を習得させられてました。
デジコミではそのような訓練はすでに過去のものとなっています。ペン慣れの要素の大半は、アプリケーション側が補完するようになったためです。
90年代後半位から、作家が丁寧にアシスタントを育てても、アシスタントがすぐにデビューや同人誌活動が忙しくなってすぐにやめてしまうというような状態になってしまい、育てる側にメリットが無くなってきました。また作家も、徒弟制度の時のようにアシスタントの面倒を見るというよりはスポットでアシ料を払う付き合いで運用するようになってきました。
【3】加齢や環境による障害を克服するため
漫画家の代表的な病として思いつく物に緑内障、老眼、腰痛、腱鞘炎などがあります。
特に、机に向かって作業をするそのスタイルから、マンガ家という職業は緑内障になりやすい傾向にあります。
緑内障という視野欠損の病を持っている作家は、自分がアドバイスしている作家さんたちの中にも数人いらっしゃいます。
この病気は早い人で40代くらいから症状が出てきますが、デジコミであればうつむけになって作業をしない為、手描きにくらべて目の負担が少なくなるという理由から、デジコミを導入される方も大勢いらっしゃいます。
また漫画家にとっての大敵である老眼、これも手描きであれば作画品質に妥協をしなければなりません。しかしモニタ作業であるデジコミであれば原稿の一部を拡大できる為、作品のクオリティを落とさなくてすみます。
腱鞘炎などの場合も、ペンやカッターなどどれも鉛筆をにぎる形と変わらないスタイルである手書き原稿と違いマウスに持ち替えたり、さらには加齢によって勢いの無くなった線、ふらついた線であってもアプリケーション側で補正をすることで原稿の質を上げる事が可能です。これは従来の手描き時代であれば数年アシスタントをしないと描けないような枯れた線を初心者が訓練せずともアプリケーションの力で再現できる事と同じものです。
デジタル化によって、『作家性』と『技術』など、漫画作業工程で混同されていた部分が再構築されるようになりました。それにより、手描き時代では厳しかった高い生産性とコストの両立、そしてさらにデジタルならではの表現を求める事ができるようになりました。